まず不思議なタイトルだと思った。
本書によると、2010年の日本の年間医療費は35兆円で、就業人口がおよそ300万人。これに対して、自動車産業の出荷額は57兆円で、就業人口がざっと200万人。
金額だけでみたら「医療は35兆円産業」ともいえるし、今後必ずやって来る高齢化を考えると、やがて40兆50兆と増えていくだろう。そうなれば雇用も増え、自動車産業よりも大きなマーケットとなりうるのだ。
という主張が、このタイトルには込められている。
しかし現状では、医療は儲けてはいけないとされており、民間の病院は「医療法人」という特殊な組織によって運営されている。
営利目的ではないなら、医療従事者の仕事はボランティアなのだろうか?
「それがなければ地域が成り立たない」という特殊な業務の性質上、医療は「社会のインフラ」という側面がどうしても強い。
だから、一般企業のような利益追求・売り上げ拡大を求めてはいけないとされてきた。
医療機関の収入は、保険診療の場合は国が2年に一回決める「診療報酬」によって定められている。
(もう一つ、「自由診療」というカテゴリがある。保険が効かず、価格は提供者が自由に決められる。つまり「言い値」で通るため、医療として見て良いのかどうかはグレーなところ)
この収入ですべてをまかなえというのが国の考えだが、それだけではもう立ち行かなくなってきている。医療費の財源のうちおよそ半分を占める国民健康保険の収納率が悪化しているのは、よくニュースになっているとおりだ。そして、コンビニ受診増加による現場の疲弊。
これらが巷で言われている医療崩壊の原因であり、この逃れは止まらないだろう。
では、これから日本の医療はどう変わっていくべきか。それを
「医療の自由化」によって、産業として活性化しよう というテーマで、筆者は医療法人の理事長という立場から実体験を交えて語っている。
これ、「医者は儲かる」「病院はおいしい」という見られ方をしている今の世の中にあって、非常に勇気ある発言だ。ざっと挙げると、
・国民健康保険制度の抜本的見直し(アメリカのようになってもいいのか?という反対意見が出てくるのは、昨今のTPP参加問題への意見にもあった)
・官が決めている診療報酬制度を民へ移行し、価格競争を導入(コストは下がるが、安かろう悪かろうといった質の低下が懸念される)
・日本の医療を輸出産業化して、外貨を稼ぐ(今まではドメスティックな業態だったから、質の良さを売りに海外進出。しかも稼ぐだけではなく、医療をかの地に根付かせるという、世界貢献も果たせる)
といったところだ。
中でも最後の輸出については、カンボジアで計画が動いているそうで、かなり具体的。
猫ひろしが、メイドインジャパンの医療を受ける日が来るかもしれない?
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